PID制御には、変更するパラメータが3つ存在します。P制御(比例制御)における比例ゲインKp、I制御(積分制御)における積分ゲインKi、D制御(微分制御)におけるゲインKdの3つです。
これらのパラメータ(ゲイン)を変えた場合における、ボード線図(周波数特性)の変化についてエクセルでシミュレーションしたので紹介します。
本記事は、PID制御におけるボード線図の変化のイメージを忘れたときに使うことを目的としています。
伝達関数と周波数特性の求め方
デジタルPID制御の伝達関数
デジタルPID制御の伝達関数を上式に示します。H(z)はデジタルPID制御の伝達関数、Kpは比例ゲイン, はKi積分ゲイン, Kdは微分ゲインです。
アナログ制御においては、s平面のH(s)となりますが、デジタルなので(離散的なので)z平面のH(z)となっています。
また、サンプリング周期・制御周期を一定とすることで、微分の時間や積分の微小時間はゲインのKiやKdに含まれる形となっています。
z変換(z平面)の周波数特性
デジタルPID制御の式へ上式を代入し、複素数の利得と位相をグラフ化することで、後述するグラフの特性を描くことができます。
jは虚数単位、ωは角周波数、Tsはサンプリング周波数です。
今回、サンプリング周波数Tsは200kHzとしています。
ボード線図(周波数特性)
P制御:比例ゲインKpの変化 (Ki = Kd = 0)
比例ゲインKpをKp=1,Kp=5,Kp=10と大きくしたときのグラフを示します。
グラフから、ゲイン曲線のみ変化していることが読み取れます。
Kp=1では0dBで一定です。Kpを大きくすると、ゲイン曲線が正の方向へ平行移動していることが読み取れます。位相線図は0°一定となっており、変化はありません。
P制御の意味合い
P制御は、過渡特性に影響を与えます。P制御を大きくするほど、バンド幅を大きくとることができ、過渡応答の収束は速くなります。
一方で、位相余裕やゲイン余裕の安定余裕が小さくなり制御系が不安定になったり、過渡特性が振動的になる恐れがあります。
PI制御:積分ゲインKiの変化 (Kd = 0)
I制御を単体で用いることはないため、PI制御としています。
比例ゲインをKp=1固定としたとき、Kiを0.001、0.01、0.1と変化させたときのボード線図を示しています。
I制御を追加することで低い周波数におけるゲイン線図・位相線図に変化が見られます。
具体的には、ゲイン曲線は、右肩下がりとなっており、周波数が低くなるほどゲインが高くなっています。積分ゲインKiが大きいほどゲインは大きくなっています。積分ゲインKiが大きいほどゲインが0dBになる周波数が高くなっています。
また、位相線図は右肩上がりとなっており、周波数が低くなるほど位相遅れ(位相が負になること)が生じています。ゲインが大きいほど位相遅れが生じる周波数範囲も広くなっています。
I制御の意味
I制御は、定常特性の改善に用いられます。低域でのゲインを上げることが目的です。P制御のみでは、目標値に値が近づいたとき、操作量が小さくなり、目標値ピッタリに追従できないことがあります。この操作量が小さくなる問題をI制御を加えることで解決します。
PD制御 :微分ゲインKdの変化 (Ki = 0)
D制御単体で用いることはないため、PD制御としています。
比例ゲインをKp=1固定としたとき、Kdを1、10、100と変化させたときのボード線図を示しています。
D制御を追加することで高い周波数におけるゲイン線図・位相線図に変化が見られます。
具体的には、ゲイン曲線は、高い周波数で右肩上がりとなっており、周波数が高くなるほどゲインが高くなっています。微分ゲインKdが大きいほど、ゲインは大きくなっています。
また、位相線図は、高い周波数で右肩上がりとなっており、周波数が高くなるほど位相が進んで(位相が正になること)います。微分ゲインKdが大きいほど位相進みが生じる周波数の範囲が大きくなり、位相進みの最大値も大きくなっています。
D制御の意味
D制御は過渡特性改善に用いられます。位相を進ませることにより、位相余裕を増やすことが目的です。
位相を進ませることが目的のD制御では、位相進みは90°で維持されることが理想的です。しかし、100kHzに向かうにつれて、位相が遅れていき、100kHzで0°となっています。これは、デジタル制御の限界です。今回、サンプリング周波数は200kHzであるので、100kHzはナイキスト周波数です。ナイキスト周波数に向かうに従い、位相進みが効かなくなっています。
また、微分制御によってゲインも同時に大きくなるため、バンド幅が変化します。すなわち、位相余裕やゲイン余裕が小さくなる可能性もあります。注意が必要です。
まとめ:PID制御
PID制御すべて加えたボード線図を描いてみました。
比例ゲインKp、積分ゲインKi、微分ゲインKdを巧みに操ることで、制御系を設計します。
基本の比例制御のゲインKpを大きくとることで、全周波数帯域のゲインを持ち上げます。こうすることで、バンド幅を稼ぎ、過渡応答の収束を早くします。バンド幅の拡大に伴い、小さくなった位相余裕を微分制御によって位相を進めることで確保します。しかし、微分制御は、位相を進めるのと同時に高域のゲインも上昇させることに注意が必要です。高域のゲインが上昇することで、バンド幅が大きくなり、位相余裕やゲイン余裕が悪化する恐れがあります。そして、積分制御によって低域のゲインを持ち上げます。こうすることで、定常特性が改善します。